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哺乳類異所的高次クロマチン形成系の構築とその分子基盤
白井温子
理研・眞貝細胞記憶研究室
ヘテロクロマチンは、様々な生命現象に重要な役割を果たす代表的な高次クロマチン構造であるが、その形成の仕組みの詳細は、動物細胞では未だ謎に包まれている。我々は2017年に、H3K9メチル化酵素Suv39h1はchromo domain (CD)でペリセントロメアから転写されるncRNAと結合していること、CDに変異を導入しRNA結合能を欠いたSuv39h1変異体をSuv39h欠損細胞に発現させるとヘテロクロマチン形成が不十分となることを示した [Shirai et al. eLife, 2017] 。しかし、CDのRNA結合能を欠いたSuv39h1変異体でもヘテロクロマチンは形成されることから、ペリセントロメアからのncRNAがヘテロクロマチン形成において如何に重要なのかについては不明な点が多い。動物細胞において、特定の染色体領域にペリセントロメア領域のDNAを挿入して新規のヘテロクロマチンが形成されるかは、その実験系が構築されておらず、不明である。そこで本研究では、ヒトHEK293細胞のAAVS領域特異的にヒトやマウスのペリセントロメア配列を挿入し、ヘテロクロマチン形成をモニターできる系の構築を行った。その結果、GFP-Alphoid DNAをAAVS領域特異的に挿入するとGFPの蛍光が消失した。この時、GFP領域ではヒストンH3K9me3の顕著な蓄積が検出され、またDNAメチル化が生じていた。以上の結果より、異所的に挿入した反復配列上でヘテロクロマチンが形成され、それをモニターできることが明らかになった。さらに、このHEK293細胞において、ヒトのペリセントロメア配列はGFPに対しての向きを変えても抑制する程度に違いがなかったのに対して、マウスのペリセントロメア配列はGFPに対しての向きによって、GFP発現抑制に違いがあること、またマウスのペリセントロメア配列からの鎖特異的な転写量に違いがあることが明らかになった。この現象がヒト細胞に種の異なるマウスの配列を導入したために生じた可能性を考え、マウスES細胞においても、Rosa26領域での異所的ヘテロクロマチン形成系の構築を行った。その結果、マウスES細胞でもヒト細胞での結果と同様の現象が観察された。すなわち、ヒトペリセントロメア配列は向きに関係なく抑制された一方で、マウスペリセントロメア配列はGFPに対しての向きによって、GFPの発現抑制に違いがあることが明らかになった。さらに、GFP領域上ではDNAメチル化やヒストンH3K9me3の蓄積が生じていたことから、マウスからヒトに至るまで保存性の高い機構によって反復配列の抑制が行われていることが明らかになった。現在、挿入方向によって反復配列の抑制が変わる保存性の高い分子機構の解明を進めており、ncRNAが持つヘテロクロマチン形成における役割を解明していきたい。
Establishment and its molecular basis of mammalian heterochromatin